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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)1199号 判決 1961年11月21日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松下宏の上告理由第一、第二について。

論旨は、原判決の所論判示には銀行取引に関する経験則違反があり、また所論証言の趣旨を誤つて判断の資料とした違法があるから、原判決に審理不尽理由不備の違法がある、というにある。しかし、原判決における所論認定ならびに判断は、証拠関係に照らし、首肯できないものではないから、所論は、ひつきよう、原審の裁量に委ねられた証拠の取捨判断ないし原判決の適法になした事実の確定を非難するに帰し、採用できない。

同第三について。

論旨は、原判決には民法一一〇条の解釈を誤り審理不尽理由不備の違法がある、というにある。しかし、原判決の趣旨は、取引約定書(甲一号証)には上告銀行が融通する金額の限度や保証期限の記載がなく、従つて意外の巨額について長期にわたつて被上告人が保証の責を負わなければならないことになる虞れがないわけではないのであるから、かかる場合には保証人となる者に一応照会するなどして真実保証を承諾したかどうかを確めるのが一般取引通念上相当であるに拘らず上告銀行はこれを確めることを全くしなかつたのであり、ただ漫然と被上告人が保証を承諾したものと錯誤したものであるから、このような場合においては民法一一〇条の適用がないものと解するを相当とする、というのであることは判文上明らかである。そして原判決の右判断は正当であると認められる。しからば、原判決には民法一一〇条の解釈を誤つた違法ならびにこの点に審理不尽理由不備の違法がないといわなければならない。論旨はすべて理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋 潔 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

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